佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ

氏名
村山 詩帆

教育の責任

 私は専任教員として所属する佐賀大学において、2016年度までに11つの科目について講師を担当してきた。これらの科目は教養教育科目、学部生を対象とした教職科目、大学院生を対象とした専門教育科目である。教養教育科目の主な受講生は、教育学部(文化教育学部)、経済学部、理工学部、農学部の学部生であり、教職科目は教育学部(文化教育学部)を中心として、経済学部、理工学部、農学部の学生が履修している。大学院の専門教育科目については学校教育専攻のみならず、教科教育専攻の大学院生が例年履修している。ただし、教育学研究科の廃止に伴い、大学院の専門教育科目は平成29年度から履修登録者がないものと予想される。
いずれの授業科目についても、「佐賀大学の学士力について」に示される教育の基本的な目標等に基づいて定められた開講部局の目標に則って、授業の設計を行うようにしている。あくまでこの前提に基づき、私の教育理念が実現できるよう教育の方法等を工夫している。

教育の理念

 私は次世代の若者とともに、社会を少しでも「望ましい」姿にしていくための構想を練り、その構想の実現を目指したい。このため私は、大学教員として社会の「望ましさ」を構想するため学究活動に取組み、その内容をさまざまな方法を用いて次世代を担う若者である学生に伝えている。
 社会の「望ましさ」とは、自ら考え、実践する筋道を先行世代が示してみせてはじめて、次世代の若者が責任をもって構想することができる。しかし、社会の「望ましさ」を考え、実践するのは決して簡単なことではない。社会の「望ましさ」を考えるには極めて複雑な思考実験が欠かせないし、社会の「望ましさ」に基づいて実践するには、目先の個人的な利益を諦めなければならない状況にしばしば直面する。目先の個人的な利益より社会の「望ましさ」を優先する生き方は、目先の利益にばかり拘らずにいられるある種の強さがないと実践するのは難しい。また、そのような強さは個人の努力によってのみ獲得できるわけではない。社会の「望ましさ」をもたらすよう、あらゆる学生にただ「強くなれ」と駆り立てるばかりでは、強くなることの難しさに直面して自らの弱さを突きつけられるだけになったり、自滅するまで無理をして強くあろうとする学生を生み出したりしかねない。滅私奉公を美徳とし、若年世代にそれを強いるような教育は、社会の「望ましさ」を実現することにはならないだろうから、私はそのような教育を行うことを厳に慎もうと思う。
 目先の利益に拘らない強さがありそうな学生、社会の「望ましさ」を目先の利益に優先させる人々を理解し、協力できそうな学生もいれば、そうした人々に共感を覚えながらも協力することができない学生もいるだろう。このことを念頭に、向き合った学生がどのような状態にあるのかをそれとなく診断することが大切である。そして、学生の状態に合わせて、目先の利益を優先しがちな弱さを見守りつつ、目先の利益に拘らない強さや、その強さを理解し、協力していけるような知性を少しでも育んでいきたい。
 大学教員としての私の役割は、学生が社会の「望ましさ」についてできるだけ複雑な思考実験を重ね、それを柔軟に自らの実践に結びつけられるよう、教育を通して働きかけていくことにあると信じている。このような役割を果たすための私の基本的な教育の理念は、次の3つである。これらの3つは大学が定める「佐賀大学の学士力について」の「基礎的な知識と技能」、「課題発見・解決能力」、「個人と社会の持続的発展を支える力」に対応している。

(1)私の専門領域である教育社会学を中心として、社会の「望ましさ」に関わりのある教育学、社会学、経済学、心理学の分野における知見を広く紹介し、学生が柔軟に人文・社会科学の方法を実践的な課題に役立てられるよう手助けする。
(2)社会の「望ましさ」といった規範的な命題が、重苦しく、受け容れがたいものになってしまうのを避けるため、受講生が私になるべく親しみを感じてくれるよう心がける。
(3)学生には誠意と公平さをもって接し、私が授業で発言した内容を自ら裏切ってしまうような実践はしない。

教育の方法

 私はいずれの授業科目においても、先に述べた教育の理念並びに大学が定める「佐賀大学の学士力について」に従って、社会の「望ましさ」を意識しながら、私の専門分野の知識のみならず、広く人文・社会科学の研究から得られた成果を受講生に紹介することにしている。また、授業が一方的な講話に終わらないよう、何らかの形で質疑応答の機会を設け、受講生とのコミュニケーションを図っている。このコミュニケーションによって、私は授業に対する受講生のコミットメントの状態や理解度を知ることができ、受講生にとっては、それまで自らが抱いていた理解とは異なった理解に至ることが期待できる。
 なお、私が受講生とコミュニケーションをとるにあたっての留意点を示すと、以下のようになる。

(1)受講生随時学生からの質問を受け付けている。
(2)受講生の発言内容が特定の知識に偏っている場合、相容れない知識をあえて提示する。
(3)受講生が多い授業の場合、授業に対するコミットメントが低下していると思われる受講生や、講師を注視しているなど、質問がありそうな表情をしていると思われる受講生に質問を促す、あるいは質問を投げかける。
(4)プレゼンテーション(受講生が30名を超える授業ではグループ単位)を課し、質疑応答を行う。

私が担当している授業科目は、インターフェース科目を除けば文化系に属するもので、同じ文化系に属するさまざまな専門分野と内容が重複する部分がある。また、いずれも選択科目や選択必修科目となっている。このため、私が専門とする分野の知識を受講生に押付けることによって、異なる専門分野のもつメリットを発見してもらう機会を逸したり、過度に抑圧的な授業になってしまったりする恐れがある。このため、特定の事項について、異なる見解があれば、専門分野が違っていてもその紹介に努め、いずれの専門知識を正統とみなすか、あるいは判断を保留しておくかは受講生に委ねることにしている。
 成績判定にあたっては、受講生に特定の専門分野の知識を押付けないという教育方法の方針に従い、インターフェース科目を除き、レポートを主な評価材料として活用している。成績判定に先立って、レポートの内容が感想文に終わらないよう、あらかじめ受講生に採点方法を開示している。具体的には、「講義の接点」、「テーマの設定」、「論理の展開」の3つの観点を設けて採点することとし、採点例をWeb上のオンラインシラバスや当日配布資料に記載して周知を図っている。

今後の目標

 長期的には、次世代の担い手である佐賀大学の学生が目先の利益を増大させることばかりでなく、長い目でみた社会的な望ましさを念頭に考え、意図的・選択的に行動できるよう、学修支援の環境を引き続き堅実に築いていきたい。短期的には、社会的な望ましさに配慮することのメリット・デメリットを受講生に問いかけながら、受講生が授業へのコミットメントを強めてくれるよう働きかけていくことを予定している。
 2017~2018年度については、当面、以下のように目標を定めた。

(1)履修生同士の討議を活性化させのみならず、討議の内容を適切にまとめに反映させ、レポート作成に活かしてもらう方法について検討する。
(2)採用した教科書について、スライド資料と併行しながら自学自習や討議に効果的に利活用する方法を検討する。
(3)討議の技法を身に付けるための効果的な方法に関するワークショップ等に参加する。
(4)オフィスアワー週2コマを確保し、なるべく会議を入れない。

エビデンス

1-1 :佐賀大学の学士力について
2-1 :全学教育機構の目標
2-2 :文化教育学部の目標
2-3 :教育学研究科の目標
3-1 :オンラインシラバス
3-2 :用語選択問題(客観式)開示用(教育の社会学)
3-3 :予備討議シート、本討議シート
3-4 :用語選択問題(客観式)開示用(教育の研究課題)
3-5 :履修生へのコメント
3-6 :囚人のジレンマ・ゲームの対戦表
3-7 :プレゼンテーション資料
4-1 :インターフェース科目の課題
5-1 :成績データの分析結果まとめ(リサーチ・リテラシーⅠ)
6-1 :コース会議(リサーチ・リテラシー)
6-2 :教師のための教育学シリーズ11 子どもと教育と社会
6-3 :配布資料(リサーチ・リテラシーⅠ)
6-4 :配布資料(リサーチ・リテラシーⅢ)
6-5 :第29回佐賀大学FD・SDフォーラム配布資料
6-6 :平成27年度第1回全学教育機構教員会議配布資料
6-7 :最終講義資料
7-1 :佐賀大学全学教育機構規則
7-2 :佐賀大学全学教育機構組織運営規程
7-3 :佐賀大学学生対象調査報告書(平成27年度)
7-4 :文部科学省先導的大学改革推進委託事業・事業成果報告書
7-5 :日本教育社会学会第68回大会発表資料
7-6 :教育功績等表彰者の座談会記録

参考資料

参考URL

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