佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ

氏名
猪原 哲

教育の責任

1.教育の責任
 学部1年生向けの必修科目「電気系数学演習」を2003年~2008年まで担当した。この科目は入学直後の学生向けであり,高校の数学の復習からはじまり,専門科目で必要になる数学に徐々にステップアップしていく内容になっている。2008年から現在まで学部2年生向けの必修科目「複素関数論」を担当した。2006~2012年まで「パワーエレクトロニクス」(3年生向け選択科目),2010年から現在まで「環境電気工学」(3年生向け選択科目)を担当している(各科目シラバス参照)。
 研究室には,学部4年生(卒研生)と大学院生が在籍している。2016年度は,学部4年生3名,大学院生3名の研究指導を行った。研究室では,週1回の研究進捗報告,週2回の勉強ゼミを実施し,全学生に週間進捗報告書を提出させている。他に,研究グループあるいは研究担当学生ごとに研究指導を適宜実施している。

教育の理念

2.教育の理念 
 世界の継続的な発展には科学技術の発展が必要である。その科学技術の発展の一役を担っているのが技術者である。技術者とは,理学や工学の知識を使って人間に有用な機器やシステムを設計・製作する職業人である。私は,「人類のよりよい発展」に貢献できる技術者を育成したいと考えている。この観点から,技術者として必要な基本的素養は,地球規模で広い視野で物事を捉え,倫理観を持ち,多様性を理解することであると考えている。
 技術者を目指す学生にとっての基本的な姿勢は,「無いものは作る」,「壊れたら修理する」という精神であると考えている。現実にはこのことを実践することは不可能であるが,この考え方を念頭において行動することによって,技術者としての基礎的な素養を学ぶことができると考えている。技術者は,実現したいモノや機能を頭にイメージできる能力とそれを具体的な形に実現する力が要求される。そのためには,失敗を恐れずに挑戦する勇気,形のないものに対する想像力,試行錯誤を繰り返しながら目標に向かって進んでいける行動力が必要である。
 「技術」というものは終わりがなく,常に発展することを要求される。新しい技術開発を要求される中で,技術者は生涯新しい知識の習得,自ら継続的に研鑽を積みつつ,勇気,想像力,行動力を発揮していかなくてはならない。そのために必要なのは困難な状況においても諦めない心である。それを支えるのは,「楽しさ」を感じることである。英語で「enjoy」はある一定の努力の先にある「楽しさ」を意味する。教育課程での学習はとかく苦痛を伴うことが多いが,努力が実を結んだ先にある「enjoy」を学生に伝え,経験させることによって,諦めない心を育てたいと思うからである。将来技術者として従事し解決が困難な問題に行き当たったとき,この「enjoy」を知っていれば乗り越えることができるし,技術者としてのやりがい,生きがいはこの「enjoy」によって支えられていると考える。

教育の方法

3.教育の方法
3.1 講義内容の要点の明示
 「複素関数論」では,毎回の講義開始時に15分程度の小テストを実施している。このテストは必ず前回の講義内容から基礎的,初歩的な問題を1,2問程度出題するようにしている。この出題によって,学生が講義内容の要点,つまり「最低限度分かっておくべきこと」を把握しやすいようにしている(添付資料(1):複素関数論小テスト)。
3.2 報告書の作成,提出
 研究室の4年生および大学院生には,週間報告書を必ず提出させている。この報告書には目的,実施内容,検討,今後の予定を必ず記入させている。これに通じて,技術文書作成のスキルを向上させる。また,常に研究結果が見える形で整理されることによって計画性と自主性を促す(添付資料(2):研究室週間報告書)
3.2 抽象的な概念を実験で見せる
「環境電気工学」では,講義内容に関連した実験を学生の目の前実施している。例えば,日本では飲料水をつくるために塩素を使って消毒している。一方,新しい技術では,オゾンやプラズマ(蛍光灯やプラズマテレビはこれを応用している)を使うと塩素よりも強力に消毒できることが分かっている。講義では,まずこの概念を化学反応式などを用いて解説する。次に,実際に実験をしてたしかに消毒できたことを学生の目の前で示す。このようにすることによって,学生が興味をもち,抽象的な物理現象の理解を深めるようにしている。
3.3 研究室所属学生に対する講義,学外者との共同研究の実施
新年度の開始時に,研究室で研究活動をしていく上での基本的な姿勢について講義をしている。研究(与えられた仕事)の進め方,姿勢,ルール,倫理などについて講義している(添付資料(3):基礎ゼミ資料(研究の進め方))。また,研究テーマを共同研究で実施するときは,共同研究先とのやり取りは極力学生にさせ,プロジェクトの一員として担当させている。ただし,常にメールで動向を見ておき,問題がおきそうなときはフォローして信頼関係を維持するようにしている。これによって,学生に責任感と自主性が持てるようにしている。また,国際も積極的に行い,異文化との交流を図ることによって,広い視野と多様性を認める能力を養うようにしている(添付資料(4):国際パートナーシップ参加記録)。
3.4 研究を通した成功体験
研究室では「無いものは作る」,「壊れたら修理する」という考えを基本にした指導を行っている。研究で用いる装置は,共同研究による日程調整が必要となる場合以外は,特殊なものや測定器を除いて自分で設計,製作するよう指導している。はじめは装置が正常に動作しないことがほとんどで,不良箇所を探し,特定できてもさらに別の箇所が不具合を起こすため,修理しながらの製作となる。その過程で,学生は装置の動作原理を理解していくことになる。この経験によって,教育理念の中の「勇気」,「想像力」,「行動力」,難しい課題に行き当たったときでも諦めないで最後までやり遂げる「諦めない心」を養うことができる。

4.教育の成果
4.1 複素関数論の受講者による授業アンケート結果
■設問:「この授業の学習到達目標や成績評価基準を把握していますか」
「ある程度は把握している」あるいは「完全に把握している」:71%
■設問:「教員の教育理念に基づいた教育方法や成績評価方法等の説明は有益でしたか」という設問に対し,67%が
「そう思う」あるいは「全くその通りだと思う」:67%
■設問:「教員の授業に対する意欲や熱意が感じられましたか」
「そう思う」あるいは「全くその通りだと思う」:87%
(添付資料5:授業アンケート結果(H28年度複素関数論))
4.2 環境電気工学の受講者による授業アンケート結果
■設問:「この授業の学習到達目標や成績評価基準を把握していますか」
「ある程度は把握している」あるいは「完全に把握している」:82%
■設問:「教員の教育理念に基づいた教育方法や成績評価方法等の説明は有益でしたか」
「そう思う」あるいは「全くその通りだと思う」:91%
■設問:「教員の授業に対する意欲や熱意が感じられましたか」
「そう思う」あるいは「全くその通りだと思う」:91%
(添付資料6:授業アンケート結果(H28年度環境電気工学))
4.3 研究室の大学院生のコメント
 研究室の大学院生からは,研究室外の研究者と共同で実験を実施したことによって,お互いの情報交換の経験ができたことと,計画的に仕事を進めることの重要性を意識するようになったとコメントしている(添付資料7:研究指導実施報告書)。国際パートナーシッププログラムによる国際交流においては,慣れない英語でのコミュニケーションに戸惑ったものの,異文化との交流の重要性と面白さを実感した旨のコメントが得られた(添付資料8:国際パートナーシップ教育プログラム2015年報告書)

今後の目標

5.今後の教育目標
 今後の目標として,以下を掲げている。
(1)アクティブラーニングの実践
 一方通行の講義ではなく,学生が主体的,積極的に講義に参加できるようにする。
(2)研究室の卒研生と大学院生の研究意欲の向上をはかる。
 研究室内でプロジェクトを実施して,学生が主体的に行動し,学生間で刺激しあいながら意欲を高めていけるようにする。

エビデンス

6.添付資料
(1)複素関数論小テスト問題
(2)研究室週間報告書
(3)基礎ゼミ資料(研究の進め方)
(4)国際パートナーシップ参加記録)
(5)授業アンケート結果(H28年度複素関数論)
(6)授業アンケート結果(H28年度環境電気工学)
(7)研究指導実施報告書
(8)国際パートナーシップ教育プログラム2015年報告書

参考資料

参考URL

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