佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ

氏名
和久屋 寛

教育の責任

端的に表現すれば、社会で通用する電気電子工学技術者を養成することである。これらについては、学位授与の方針をはじめとする様々な文書でも謳われており、これを満足できるように各教員が努力している成果として、電気電子工学科(電気電子工学専攻を含む)では、毎年、ほぼ100%の就職内定率を達成できている。

電気電子工学科では、佐賀大学学士力に沿った形で、学科独自の学位授与の方針を定めている。また、これを達成するため、教育課程編成・実施の方針を取り決め、教養教育科目と専門教育科目(専門基礎科目、専門科目[必修・選択]、専門周辺科目)の授業科目を提供している。このうちで、私が定常的に担当している授業科目は以下のとおりである。また、2016年度後学期は、短期留学プログラム(SPACE-E)の「自主研究」も担当した。

○大学入門科目II【分担】
○理工学基礎技術(医用電子工学と生体情報処理)
○電気電子工学実験A【分担】
○エレクトロニクスと生活Ⅱ(生体に学ぶ情報処理入門)
○コンピュータ概論
○卒業研究【分担】

大学院課程についても、基本的に学士課程と同様、学位授与の方針と教育課程編成・実施の方針を定めて、授業科目を提供している。このうちで、私が定常的に担当している授業科目は以下のとおりである。

○応用電気電子工学特論【分担】
○計算論的知能工学特論
○電気電子工学特別セミナー【分担】
○電気電子工学特別演習A【分担】
○電気電子工学特別演習B【分担】
○電気電子工学特別演習C【分担】
○Advanced Engineering of Computational Intelligence

教育の理念

電気電子工学という学問分野は、電気回路、電子回路、電磁気学といった基幹的な授業科目のほか、環境・エネルギー、エレクトロニクス、情報通信を含めた広範な領域から構成されている。また、これらを使いこなすためには、道具としての数学も強力な武器である。

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以降、太陽光発電などをはじめとするいわゆる“クリーンエネルギー”が注目されている。また、コンピュータは高機能化・小型化が進み、スマートフォンは、かつてのコンピュータに勝るとも劣らない機能を備えている。種々の家電製品も、半導体集積回路に実装されたプログラムに従って動作している。

また近年は、「第4次産業革命」とも言われ、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ解析など、情報通信技術(ICT)の進展が目覚ましい。さらに、ディープラーニング(深層学習)の提案を契機として、グーグル社(Google)などが技術開発に凌ぎを削り、現在は「第3次人工知能(AI)ブーム」の真っ只中にあるとも言われる。その勢いは留まるところを知らず、やがて人間の仕事は機械に奪われてしまうのではないかとの憶測も飛び交っている。

これらのことを考慮すると、我々を取り巻いている現代社会は、広く情報工学も含めて、実に様々な電気電子工学分野の産物に溢れている。この事実は、電気電子工学を学んだ学生の活躍する場が極めて多いことを示唆しており、現在でも産業界から多くの求人が寄せられ、毎年、ほぼ100%が就職している。

このような事実は修得すべき内容が多いことの裏返しでもある。残念ながら、学士課程の4年間では、そのすべてを修得することは不可能であり、一部については大学院課程で取り扱わざるを得ない。そこで以下では、まず教員としての覚悟を述べたうえで、学部生と大学院生に求めることについて言及したい。

○教員としての覚悟 ~教育とは効率の悪いもの~
教育には、多大な時間と労力が必要である。また、人気商売ではない。必要であれば厳しく指導し、社会に出てから役立つ実力を身に付けさせる。そのためには、「授業で扱う難しい事柄を簡単に言い表すこと」が不可欠であり、物事の本質を理解しておかなければならない。

私の博士学位論文の研究テーマは、ニューラルネットワーク(脳型AIの一分野)に関するものであり、具体的には感覚運動系の統合作用による学習能力の向上について取り上げた。この分野の研究では、従来、感覚系と運動系は別々のモデルを個別に用いる傾向にあった。しかし、例えば英単語を覚えるときなど、単に綴りを眺めるだけでなく、何度も声に出しながら繰り返し書くことで、記憶に残りやすくなった経験があるだろう。1960年代に行われた仔猫の実験でも、能動的な行動が脳の発達によいとの報告がある。「受動性」対「能動性」。理解度を向上させるための一つのキーワードであると考えている。

また近年は、学際的な領域が急速に広がっており、将来、仕事をするうえでも、分野が異なる人々との交流が欠かせない。日本技術者教育認定機構(JABEE)でも、当初からコミュニケーション能力やデザイン能力を重視してきた。電気電子工学科では、2012年にプログラム認定を受けているが、新基準では、これに加えて「チームで働く力」の重要性が語られるようになっている。これは、社会人基礎力においても同様であり、この動きは、今後も続いていくことになると思われる。

これ以外にも、最近の流行のキーワードとしては、アクティブラーニングや地域貢献などが挙げられる。そのすべてを取り上げることは不可能であるが、僅かであっても体験させることで、その後の経過が大きく異なってくるように感じている。

○学部生に求めること ~専門分野の基礎的な内容を理解する/異分野と積極的に交わる~
この世の中の様々な現象は、ごく単純な物理法則に支配されており、その原理を身に付けてしまえば、いろいろな場面で問題解決に応用できることも多い。例えば、「距離-速度-加速度」は、お互いに微分/積分の関係にあり、どれかを理解しておけば相互に導出可能である。

また、もし自分の知らない課題に直面した場合にも、独自に調査したり、他人に尋ねたりすることで、問題解決の筋道を見出せる可能性が増大する。このとき、異分野の人々と交わることがあれば、普段は特に疑問を抱かない“常識的なこと”について尋ねられることで、改めて熟考し、その本質に気付かされることもあるだろう。これは、新しい筋道の開拓でもある。このような経験を積み重ねることで、社会から我々に期待されていることを知り、さらには、自分の“立ち位置”を実感することもできるはずである。

○大学院生に求めること ~他者へ対して教えることを学ぶ~
学部卒業後の2年間は、学部生で求められる事柄を更に磨くという側面があるものの、これ以外にも、他者へ教えることの重要性を学んでほしい。研究室へ配属されれば、学部生は下級生となるので専ら教えを乞う立場であるが、換言すれば、大学院生は上級生として教える立場になることを意味している。また、ティーチングアシスタント(TA)として任用されれば、自分が十分に内容を理解しているとの前提で、授業に臨席することになる。このように、教えることを通して理解が進むことも多いはずである。なお、もしも余力があれば、この部分は卒研生にも身に付けてほしい内容と考えている。

ここでは様々なことを列挙してきたが、上に掲げている各項目は、これまでに私自身が体験してきたことを振り返り、辿り着いた“境地”と言ってもよい。具体的には、卒研生や大学院生の時代に指導教員であった先生方に御指導いただいた内容や、自分の研究を進めていく過程で読んだ学術論文、参加した学会等で聴講した内容に基づいている。これが“最終地点”とは思っていない。これから先、まだまだ改善の余地があるはずであり、私自身、不断の努力が必要と考える。

教育の方法

1.教育とは効率の悪いもの ~効率をよくするためのアイディア~
かなり前になるが、ソフトバンク社長の孫正義氏のことが、佐賀新聞のコラム(有明抄)に取り上げられていた。要するに「脳は筋肉と同じであり、鍛えれば力を発揮する」という趣旨であった。脳研究者としての私も、全く同意見である。これに付け加えて、

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  脳は約1500グラムで150億個程度のニューロン(神経細胞)から構成されており、ハードウェアという観点に立てば個人差は極めて小さい。
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とも言える。その能力の違いがどこから生まれてくるかと言えば、普段から「どれだけ脳を使っているか」の一言に尽きると考える。また「諦め」は、理解に向けての最大の敵である。自分にはできないと思った途端に、脳はすべての情報を遮断してしまう。「自分はできる」と思うこと、あるいはそのように思い込むことが重要だと考える。このように、まずは自分はできると思う。そして、自らがやってみる。さらに可能であれば、積極的に取り組むということが重要だと考えている。

2.専門分野の基礎的な内容を理解する ~原理・原則の理解~
学部1~2年次では基礎的な物事に関する知識の習得に重点をおく。そのためには、具体例や比喩を交えながら、学生の理解が容易となるように内容を噛み砕いて説明する。決して、丸暗記は推奨しない。しっかりと原理を理解していれば、確実に正解へ辿り着く筋道を見つけ出せるはずである。

3.異分野と積極的に交わる ~自分の“立ち位置”を認識する~
大学におけるカリキュラム編成は、概して、学問分野に対応した“縦割り構造”となっている。したがって、異分野を専門とする人々と交わる機会は少ない。その傾向は、特に専門教育科目において顕著である。これに対して、教養教育科目(外国語科目や情報リテラシー科目などを除く)は、学部・学科の構成には関係なく、どれを受講しても構わない。もちろんサークルなどの場を利用した学生の自主的な活動も可能であろうが、ここでは教員として、そのような動きを後押しする環境の醸成にも努めたいと思っている。

4.他者へ対して教えることを学ぶ ~受け手の理解度を考慮した説明法~
このような段階をパスした後は、より高度な内容に挑戦する。ゼミなどでは積極的に議論へ参加し、後輩に対してアドバイスできるようになることを求めている。教員が見守っている中、学生同士で議論するのが私の理想である。また、研究成果を学会で発表する機会も提供し、“対外試合”を経験することで、自分の研究の位置付けを確認するようにも指導している。

今後の目標


エビデンス

詳細情報については、「標準版TP」を参照。

参考資料

参考URL

標準版TP

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