教育の責任
佐賀大学では,「佐賀大学 学士力」【添付資料(1)参照】として,
「基礎的及び専門的な知識と技能に基づいて課題を発見し解決する能力を培い,個人として生涯 にわたって成長し,社会の持続的発展を支える人材を養成する」
ことを目指した教育が実施されているが,理工学部理工学科電気エネルギー工学コース・電子デバイス工学コース,大学院先進健康科学研究科先進健康科学専攻生体医工学コース,全学教育機構インターフェース科目においてもそれに対応した教育目的
「幅広い教養と電気エネルギー工学分野の専門的な素養を持ち,ソフトウェアにも強い電気技術者として電気エネルギーの発生・変換・利用などの社会の広い分野で活躍できる人材を養成する。」
「幅広い教養と電子デバイス工学分野の専門的な素養を持ち,ソフトウェアにも強いハードウェア技術者としてエレクトロニクスや情報通信などの社会の広い分野で活躍できる人材を養成する。」
「生体医工学コースでは,これまで積み重ねてきた生体計測と人体運動機能制御に関連する研究を融合発展させた研究を推進し,介護・リハビリテーション分野を中心とした臨床への展開を図る。その際,臨床のニーズを的確かつ迅速に取り込むために,本専攻の医科学コース,総合看護科学コースのみならず本学病院に設置されているロボットリハビリテーション外来と密接に連携する。また,専攻他コースと共同で,典型的な融合型産業である医工学に関連した製造・サービス業等で活躍する高度人材を養成する。さらには,総合看護科学コース及び医科学コースの学生に対して,機械工学や電子工学の学理及び先端技術の教授を通じて,主として前者においては患者介護,後者においてはリハビリテーションや医用電子機器・生命維持管理装置の使用について,確かな学問的バックグランドに基づく臨床プラクティスを可能とし,地域医療レベルの一段の底上げを目指すとともにコメディカル系人材を養成する。」
「インターフェース科目は、「現代社会が抱える諸問題に目を向けて課題を発見し解決に取り組む姿勢を養い、社会に対応するための知識・技術・技能や社会を生きるための力を身に付けることにより、学士課程教育で得た知識・技能を社会において十分に活かし、将来にわたり個人と社会との持続的発展を支える力を培う」ことを目標としています。すなわち、インターフェース科目は、専門の知識・技術・技能を身につけた皆さんが、そうした知識・技術・技能を社会に活かすための能力を培うための科目です。」
【添付資料(2)参照】をそれぞれ掲げて教育を実施している.
私はこの教育目的に必要とされる「電気系基礎力学」「電気エネルギー工学実験」「電子デバイス工学実験」「卒業研究」「特別研究Ⅰ」「特別研究Ⅱ」「特別研究Ⅲ」「特別研究Ⅳ」「エレクトロニクスと生活Ⅳ」「応用電気エネルギー工学実験」「応用電子デバイス工学実験」「生体医工学特別講義Ⅰ」「Biomedical Engineering Special Lecture Ⅰ」などの専門科目を担当している.
教育の理念
私の専門分野はシステム制御であるがシステム制御とは,時間とともに動いているシステム(これを動的システムと呼ぶ)をわれわれの思いどおりの状態になるように人為的に操作(=制御,コントロール!)することである.システム制御の理論や技術を学ぶことによって制御の知識が身につくだけでなく,システム制御の理論や技術に用いられている考え方からも,大学・大学院を卒業・修了した後に必要となる「仕事をうまくやる」ための知見が多く得られる.実際,私が佐賀大学に着任する前に官公庁で従事していた機械設備の設計に関する業務では,各案件の現状(これは時間とともに変わっていく)を様々な方法で把握したうえでの書類作成が必要であったが,把握し損ねたり過去の経験からいい加減に判断して作成するとうまくいかなかったりいろいろな不具合が出たりした.また,納期(締切)を厳守する必要があることも経験的に学んだ.佐賀大学に着任してからは,実験科目のレポート対応やプレゼンテーション指導などでは,変えながら適切に指導する必要があることをこれまで多く経験してきている.このような私自身の経験から私は,「システム制御を通じて周囲の状況を的確に捉え適切な行動をとる能力をもった人材を育成する」という教育の理念・目的を掲げて教育に従事している.これによって「佐賀大学 学士力」が目指す人材育成への貢献に努めている.
*周囲の状況を的確に捉え適切な行動をとるために有効な「英語」
まず,「周囲の状況を的確に捉え適切な行動をとる」ためには,言語によるコミュニケーションは有効な手段であるが,少子高齢化が進み続け海外とのやり取りが不可避となりつつある昨今,日本社会の一員として働くこととなる多くの学生にとっても国際的なコミュニケーションは必要であるとの考えから,私が担当する科目や実験テーマにはなるべく「英語」を取り入れるように心がけている.
*適切な行動に必要な「プレゼンテーション能力」
続いて,「適切な行動」を実現するためには,相手に自分が言いたいことや相手にしてほしいこと,理解してもらいたいことを相手にうまく伝える必要があるが,この「伝える」能力を涵養するために,特に研究の「プレゼンテーション指導」を徹底して行っている.これによって,伝える相手がどういった人でどういうことを知りたがっていてそれはどのようにすればうまく伝えられるのか,ということを考えながらプレゼンテーションの準備ができるようになることを目指している.
*適切な行動の維持に有効な「自発的な行動」
また,「周囲の状況を的確に捉える」ことは「適切な行動」の実現に大きく貢献する行為であるが,自分にとって必要な情報を得るためには他者に自発的に働きかけることが必要となることから,その能力を伸ばすための指導を心がけている.
*行動の結果に大きく影響する「時間」
ところで,社会で仕事をする上においては「時間」は極めて重要な概念である.実際,時間を守らなければ他者(他社などの組織かもしれない)に不利益や不便を与え,結果として「適切な行動」が取れなくなる事態につながる可能性が高い.そこでこの「時間」というものを強く意識させるために,それを規定するルールや締め切り厳守の指導をすべての場面で徹底するようにしている.
教育の方法
*周囲の状況を的確に捉え適切な行動をとるために有効な「英語」に関する取組み
・実験科目のあるテーマでは,実験内容を補足説明するのにパワーポイント【添付資料(5)参照】を使用しているが,スクリーンに表示する内容の一部を印刷したものを配布し,足りない部分や口頭でしか言わない部分を作って自分で書きとりながら聴かせることによって,説明を聞くことに集中させるよう努めている.また,印刷して学生に配布するものは英語で書くようにしていて,口頭での説明は日本語で行っているが,英語の説明もすることによって日本語で学ぶだけでなく基本的な英単語などについての知識も得られるようにしている.
・講義科目での板書は基本的に英語で行い,重要な用語については日本語も記すようにして両方の言語で学べるようにしている.その際,書くスピードの影響を受けないようにPPT手書きのノートのコピーを貼り付けてプロジェクタでスクリーンに投影し,学生が書き写すのが終わるのを確認してから次のページに進むように気をつけている.また,ときどき書き間違えることがある(もちろん意図的ではない)が,間違っていないかよく確認しながら書き写させ,間違いに気づいたら指摘するようにも促してなるべく授業に参加させるようにも気をつけている.【添付資料(6)参照】
*適切な行動に必要な「プレゼンテーション能力」に関する取組み
・実験科目の実験テキストは,授業中の学生への説明や学生からの質問,レポート対応のやりとりや提出されたレポートを読んでいて修正が必要と感じた部分については次年度に修正し改善することによって学生のプレゼンテーション等にも役立つよう良質な素材を提供するよう努めている.【添付資料(9)参照】
・研究グループの学生全員に対して学会発表・修士論文発表会プレゼンテーション指導を実施している.1名1回につき60~90分程度で実施している.まず,定められた発表時間で発表ができるかどうかを実際に目の前で発表させてセリフが適切かどうかも聴きながら確認し,その後全般的な注意点がある場合はその注意をした後に,スライドを最初から最後まで1枚ずつ確認して修正や質問対応の準備などについて具体的にどうすればよいかを指導している.
・研究グループの学生のうち後藤教授・松田担当分の学生全員に対して学会発表論文作成の指導を実施している.論文はいきなり書き始めさせるのではなく,論文の内容の構成や使用する結果などの構想を練るための文書をゼミの資料としてまず作成させ,書く内容がある程度整理できたところで論文の執筆を開始するよう指導している.また,書き上げた論文については,てにおはまで含めて細部まで時間の許す限り丁寧に確認して具体的にどのように表現すればよいかを指示するよう努めている.
・中間発表会・最終発表会プレゼンテーションのための指導を研究室配属学生全員に対して実施している(1名1回につき60~90分程度).やりかたは学会発表・修士論文発表会プレゼンテーション指導と同様であるが,その際,電気電子工学は裾野が極めて広い学術分野であることから相手(もちろん教員)が素人であることを意識させて論理的かつ簡単に説明するよう指導している.
*適切な行動の維持に有効な「自発的な行動」に関する取組み
・実験科目の実験レポート作成に当たって不明な点が出てきた場合は「何でも何度でも」質問に来てもよいということを繰り返し言うようにし,学生自らが積極的にレポート作成に取り組ませるように努めている.これによって,友人等のレポート丸写しをしなくてもレポートの作成ができるようにしている.【添付資料(10)参照】
・実験科目のレポート指導は1人ずつ対面で実施している.また,レポート指導が義務ではない実験テーマについてもレポート指導を希望する学生については指導している.
・実験科目のレポート指導に当たっては,学生の理解度に合わせて対応方法を変えるように努力している.その際,できているところはできていると伝え,できていないところについては何がどうできていないのか,あるいは何が足りないのか,といったことを具体的に伝えるよう努め,足りない内容については何が足りないかをレポートに直接書き込んで明示するようにしている.また,特によくできている場合にはなるべくほめるようにし,必要に応じて少し掘り下げた内容の解説をするようにして実験内容に興味を持ってもらえるよう努めている.【添付資料(10)参照】
・あらゆることについて学生たちが自主的に取り組む実験科目の場合には,可能な限り実験の進め方に関するアドバイスはしないようにしている.また,質問等をしてきても,学生自身で考えてほしい内容については明確には答えないようにしている.
・講義科目では,試験の直前にどういったことを勉強しておけばよいかを口頭で説明し,自分で頑張ればなんとかなると思わせ絶望感を与えないよう最大限努力している.
*行動の結果に大きく影響する「時間」に関する取組み
・実験科目では,レポート作成についての締め切りやルールをきちんと守らせるために,口頭で伝えるだけではなくレポート作成要領をその都度配布している.【添付資料(12)参照】
・実験科目のレポート指導に当たっては,締め切りやルールを守れていない学生に対しては過度の叱責等はしないように気を付けつつそのことを明確に伝えるようにしその対応方法を学生の状況を確認しながら具体的に指示するようにしている.
・講義科目では出席管理をシステム任せにせず,毎回授業のはじめに一人ずつ名前を呼びながら出席を取っている.その際,顔と名前を覚えるよう努めている.
・研究室のルールや締め切り等は守るよう指導しているが,重要なことは口頭だけではなくガイダンスの際に資料を配布して読みながら説明したり,メールで送信したりして徹底するようにしている.
今後の目標
*短期目標
現在担当している実験科目と講義科目について,学生から提出されたレポートや試験の答案の内容についての学生へのフィードバックを強化する方法を模索する.また,担当科目の変更があった場合は,その新たに担当する授業についても私の教育の理念・目的である「システム制御を通じて周囲の状況を的確に捉え適切な行動をとる能力をもった人材を育成する」に沿って授業の準備をして実際に授業を実施して得られた応答に基づいて改善を繰り返していく.「教育の方法」の4つの取組みについて,別の有効な評価方法についても検討し,改善を試みる.
*長期目標
私の教育の理念・目的は,「システム制御を通じて周囲の状況を的確に捉え適切な行動をとる能力をもった人材を育成する」ことであるが,今後もこの理念・目的に沿った教育活動を継続・推進する.現状で関与可能な教育活動については全力で取り組みつつ,より広範囲の教育に携わることが可能になるように研究活動等にさらに注力する.
エビデンス
(1) 佐賀大学 学士力
(2) 佐賀大学理工学部理工学科電気エネルギー工学コース・電子デバイス工学コース教育目的,佐賀大学大学院先進健康科学研究科先進健康科学専攻生体医工学コース教育目的,佐賀大学全学教育機構教育インターフェース科目の目的
(3) 担当科目シラバス(オンラインシラバス)
(4) 大学院授業補助・主任指導補助職務内容調書写し
(5) 実験科目補足説明資料
(6) 講義科目板書資料
(9) 実験科目実験テキスト
(10) 実験科目レポート
(12) 実験科目レポート作成要領
(13) 講義科目試験答案
(14) 教員活動データベース(一般講演(学術講演を含む))
(15) 実験科目成績根拠資料
(16) 講義科目成績根拠資料