佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ

氏名
Moxon Jonathan Peter

教育の責任

現在私が所属している佐賀大学全学教育機構は、全ての学生の教養教育の責任を負っている。その中で私が担当している科目は(1)語学としての英語(共通基礎科目)の授業、(2)文化、科学、現在社会に関する授業(基本教養科目)、(3)インターフェイスの科目となる留学支援英語教育カリキュラム(ISAC)に関する授業、(4)サブスペシャルティー「英語コミュニケーション」に関する科目、(5)大学院におけるAdvanced English for Academic Studyである。これらに加え、以前は教育学部における「英語アカデミックスピーキング」と「オーラルコミュニケーション」も担当した。そして、前職の短期大学において、多数の英語・英米文化、国際理解関連の科目を担当していた。
(1)の共通基礎科目については、新入学生から1、2学年で順番に受講する「英語A〜D」を担当してきた。TOEICテストの結果によって習熱度別クラスに編成となる「英語B〜D」は上位成績のクラスを担当し、年度によって異なるが、教育学部、理工学部、経済学部、農学部、地域デザイン学部の全ての学部に基礎英語を教えている。
(2)の基本教養科目については、現在社会分野に属する科目「Life in the Global World」、自然科学と技術の分野に属する科目「The Natural World」、文化の分野に属する「Immersion Program」を担当した。
(3)のISAC関連科目については、通常新学年授業開始前にカリキュラム希望者のプレースメントテストによって編成される40名前後のグループにレベルの高い英語学習環境を与える仕組みとなっている。原則として外国人教員が担当し、インタラクティブな授業により、英語の運用能力の向上を目指して、4技能をバランスよく鍛える。 また、英語の言語学的な能力向上だけでなく、異文化理解や国際コミュニケーション能力の育成に必要な講義も、全て英語で行われる。私が担当しているのは共通基礎科目の英語に当たるISAC生のための「英語A〜D」(年度によって異なる)、そして国際コミュニケーション能力を育成する「Intercultural Communication I〜IV」(年度によって異なる)であり、異文化論や文化と文化の間に生じる誤解などについて学ばせている。また、2020年10月からはISACの運営など責任者となっている。
(4)のサブスペシャルティ「英語コミュニケーション」については、本庄ではビジネス分野、科学環境分野、プレゼンテーションやディベート、グローバルシティゼンシップで、鍋島では医療現場で、それぞれの分野で必要とされる専門的かつ実用的な英語コミュニケーション能力の向上を目指す科目組である。その中で私が担当するのは「英語コミュニケーションI(本庄)」はビジネス英語と「英語コミュニケーションIII(鍋島)」医療英語のディスカッションとプレゼンテーションである。
最後に(5)の「Advanced English for Academic Study」では大学院1年生のための英論文の書き方を教えている。論文構成、語彙と表現、適切な文法や語彙法について指導している。

教育の理念

私自身の30年以上にわたる海外生活と、教員としてのキャリアから培った教育理念は大きく上げて3つとなる。1つ目は、言語修得に成功する達成感とその達成から広がる可能性を学生に味わってもらいたいことである。私は、応用言語学を専門とする大学教員であり、自身が第二言語学修者である。それ故に、授業は研究や実践に基づきながら、自身の学修者としての経験をもとに、学生には、学修→修得の過程を体験し、確かな達成感を実感してほしい。2つ目は、学生たちは多様な能力や学習者としての取り組み方を持って授業に挑むことから、全ての学生が、持っている可能性を発揮する機会を与えることを大切にしたい。3つ目は、私自身の教育を通じて、自発的・自律的に自身の学習状況を把握する力を身につけてほしい。

理念1: 語学・言語についての知識と共に技能を育成する
 第二言語修得に成功するには、大変な時間と努力が不可欠である。必要だからこそ、その言語を修得した際の学修者が得る達成感も大きい。どの分野でも、高い運用能力まで到達するためには自己管理、継続性などのメタ認知力が必要であり、人生においてそのノーハウを発揮する場面は多いはずである。私は、教員として継続性を支援する立場にあり、確実に学生のメタ認知力を育成することが大切である。どんな環境下でも、言語は実践で使うものなので、得た「知識」を実際の「技能」として発揮できるものに変換する機会も不可欠である。教員中心の知識伝達による修得から、学生が主体となって行う練習による技能上達へという過程を通じて、確かな英語話者として成長し、その結果として母国語と違う言語で自分の考えや経験を発信する喜びを味わってもらいたい。

理念2:全学生の可能性を発揮する機会を与える
 この理念の裏にある要素2つはある。1つ目は教育責任のところで書いたように、私は1つの分野に止まらず、様々な分野に跨って授業を担当し、様々な授業形態を通じて様々な目標と目的を持った学生を指導している。さらに遡れば、キャリアを通して小中高生、国立大学生、短期大学生、専門学校生、社会人などを教える貴重な機会があり、それぞれの学習者が持つ能力、才能などに対応することの大切さを理解しているつもりでいる。
また、1つ目の要素にも関連するが、2つ目の要素は私自身が行っている研究活動である「個人差」教育である。例えばペア活動において、エラーを修正するフィードバックに、学生が実際に気づくかどうかは様々な認知的機能の個人差が達成度を左右する部分があるという研究を博士論文にまとめている。また、科学研究費では認知的機能と新入生の4技能(話す、聞く、書く、読む)の英語力との関連を調べている。先行研究を見るとフィードバック技法そのものでも学修者が自身の「知識の欠如」に気付く度合いが変化し、修得の有効性に差が出るという発表もある。さらに、研究分野から離れるが、学修者のモチベーション、語学への不安の有無なども達成度に影響するという研究が多数発表されている。
要素1と2からの結論として、工夫次第で教育の有効性が変わる可能性があり、常に授業の改善に勤め、ひとりひとりの学生の学修成果がより出やすい教育環境作りに努力したい。

理念3:協同学習を通じて自発的・自律的に学修に取り組むことを促す
 理念1で述べた知識を技能に変換することと1.2で述べた修正・フィードバック・気付きの重要性につながるが、協同学習(ペアやグループワークによる確認やアウトプット学習)は私が行っている教育において中心的な役割を果たす。協同学習を実りあるものにするために、学生は自ら学修する責任を負い、自ら目標を達成しなければならない。この過程を通じて、学生には自発的・自律的な取り組み方を学び、そして身につけ、人生の長いスパンを通して仕事生活にも私生活にも役立てもらいたい。それに付け加え、他者との協力関係と、同じ目標に向かって達成するためのコミュニケーションの工夫も同時に育成できる。その反面、今まで学生が経験してきた学習スタイルは個別学習、大学入学試験などの孤独な挑戦が多く、協同作業による学修の可能性はあまり体験していないと思われる。そのため、授業の中でペア・アクティビティなどを取り入れて学びの機会としての効果を実感してほしい。

教育の方法

上記の教育理念を反映するために、実際の教育現場で次の方法を用いている。

方法1:研究に裏付けられた教授法を使用する
理念1の「語学・言語についての知識・技能を修得する」を反映するために科目独自の工夫もあれば、すべての科目に共通して行う工夫もある。全科目に共通するものとしては、各科目で設定されている学習目標を達成できる確実な教材選定、補充教材としてオーセンティックな言語題材の利用、認知機能を働かせる学習内容についての問いの設定などがある。
「教育責任」で述べた(1)共通基礎科目、(4)サブスペシャルティ、(5)大学院科目の外国語を中心とした科目においては、学習内容の修得を促すために豊富なインプットから宣伝的知識(知識として知っていること)を植え付け、書く活動、ペア会話活動の機会を与え、手続的知識(自らタスクなどで応用できる知識)への変換を支援する。そして、ペアやグループを観察し、必要に応じてフィードバックを加える。
(2)の基本教養科目と(3)のISAC科目の「Intercultural Communication」などにおいてはすべての授業を英語で行う。この科目では英語学修そのものよりコンテンツが優先となるContent and Language Integrated Learning (CLIL)を用いた英語を通じて学ぶ、英語によるディスカッションなどで理解を深める方法を活用している。例えば、「Life in the Global World」というテーマであれば、現代のグローバル化する社会で問題となっている事情を経済的、政治的、文化的、環境的な観点から考え、理解を深め、この世界の住民のひとりとしての認識と自覚を促す。また「The Natural World」というテーマでは、英語でのディスカッションを通じて、一般科学の歴史、現在の取組、将来の課題についての理解向上を促す。「Intercultural Communication」では、異文化論学修を基盤に、文化間の相違点を考えながら異文化を超えてコミュニケーションをどう図るかについて探っていく。この種の科目においては、方法として知識伝達の講義が大きな部分を占めるが、その学修内容への理解を深めるようデイスカッション、プレゼンテーションなどを積極的に取り入れている。



方法2:コンテンツをわかりやすく提供する工夫
 教育理念2の「全学生が可能性を発揮する機会を与える」を反映するために、学習内容をわかりやすく伝える2つの取り組みを行っている。1つ目は、明確な学習マップの提示である。工夫として(1)15回の授業の間、定期的に科目の達成目標や授業計画を確認する、(2)授業のはじめと最後にその時間の学習目標の提示、振り返りを明確にする、(3)毎時間教科書の要点をパワーポイントにまとめて、そのスライドに沿って授業を進め、授業後にそのスライドを学生とTeamsにて共有する、という作業を繰り返し行っている。視覚的・継続的な学習内容の提示は、学修者の能力の個人差から生じる様々な問題を改善する。
2つ目は、学修者それぞれに異なる学習スタイルや適性に対応できるコンテンツの提供である。協同学習や個人学習に偏らず、テンポよくバラエティに飛んだアクティビティを用いて、個人差に左右されない学習目標を達成できる手段を用いるよう配慮している。例えば、核となっているトピックの周りに、まず関連映像でインプットを補し、関連語彙を書く活動で学び、ペアワークでその学びを確認し、関連する文書を用いてその語彙をコンテクストで使用されている文書をスキムリーディングする。そしてその後、クロスリーディングで読解問題に答え、最後に語彙や言い回しを使えるグループデイスカッショントピックスを提供し、話し合った内容を簡単にクラス全体にフィードバックする、という活動を行っている。このような段階的なプロセスの中で、様々なメディアを用いて、学生がターゲット学修内容に触れるよう工夫をしている。講義の中には、個人で学びを追求するものもあれば、他者と協力して取り組むものもあり、黙々と行う受動的学修もあれば能動的に発信する機会もある、というように、様々な学修環境を設けている。

方法3:ペアやグループ作業を活用する
教育理念3の「協同学習の有効性」を反映するために、授業で積極的にペアやグループワークを取り入れている。協同学習は学生が自発的・自律的に自身の学習状況を把握する効果が期待でき、その中での現在の学びの欠如、曖昧な修得などに気付き・修正ができる機会である。
教授方法の工夫として、(1)協同学習には様々な目的と狙いがあり、取り組む前にそれらを明らかに定める、(2)なるべく学習がスムーズに行えるように、グループ編成に配慮する、(3)構成員それぞれの役割の明確化する、(4)アクティビティーの目標を明確に伝える、(5)終了後フィードバックの時間を設ける、などである。
方法1にもつながるが、ペアやグループを観察し、必要に応じてフィードバックを加えることによって、より有効的な学修にしていく。また、方法2から生まれる学修者の「個人差」においても、少人数で話せる機会を与えることにより、学生が理解できていない部分を、より早く把握することができ、個別に指導もできる。

今後の目標

短期目標
今回、ティーチングポートフォリオを作成することにより、自分の教育信念と教育方法を整理することができたが、授業の成果と評価を行うエビデンスの必要性を感じた。2020年度から独自でアンケートを作成・実施し、大学の授業評価アンケートより一歩踏み込んだ検証ができたが、今後の短期目標の一つとして、教育の成果・評価を図るデータ収集を行う必要がある。ポートフォリオ作成でより明確になった自身の教育を、多面的に数値化する方法を確立していきたい。大学の教養教育に携わる教員として、学生との関わる時間が限られており、継続的に長期的な教育成果が見えてこないところがあるが、次年度から教育学部所属となり、実習報告、卒業論文などの学生の提出物もその評価材料のひとつとなるであろう。

長期目標
教育者、日本語能力検定1汲を取得した語学学修者、職場・私生活において異文化を超えたコミュニケーターとして、長い大学教員人生と海外生活で培った豊かな経験を、より学生の指導に生かしたい。次年度からの所属の異動により、今後の教員としてのキャリアは、次世代の小中高の教員養成が中心になる。今までの人生経験と今まで行ってきた教育の長所を生かし、将来の英語教員である学生にとって、少しでもモデルとなる教育を発見していきたい。そして、教育学部での授業内容は、今までより自身の研究活動に近いものとなるので、科学研究費をはじめとする「個人差」の研究で得られた成果を学生に伝達し、教育現場で生かしてほしい。

エビデンス

(1) オンラインシラバス
(2) 学生による授業評価
(3) 独自の授業アンケート集計
(4) パワーポイントスライド(一部)

参考資料

参考URL

標準版TP

シラバス

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