佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ

氏名
山内 一宏

教育の責任

1.1.	卒業研究(卒研配属された4年生、通年)
先行研究から興味深い性質を示すことが期待されている物質、もしくは、未知の物質を合成する。合成した物質を用いて様々な実験を行い、その物質が何故そのような性質を示すのかを明らかにする。1年間に行った研究を取りまとめて、年度末に行われる卒業研究発表会でポスター発表を行う。特に優れたものに関しては、学会において発表する。

1.2.	科学英語II(卒研配属された4年生、後期)
英語で書かれた教科書、もしくは、論文を少人数で輪講する。学生は、担当箇所の英訳を行い、内容を発表する。

1.3.	特別講義 固体物理学(3・4年生、前期)
固体物理学を中心に物性物理学の考えを学ばせる。固体物理学の知識なくては、モノの道理に盲目となる。よって、本講義では固体物理の基本的な考えの伝達と思考法の習得を目指す。

1.4.	物理学実験A(2年生、後期)
物理学の基礎分野、特に、力学、熱力学、電磁気学、原子物理学、固体物理学の中の基礎的で重要な実験を2人もしくは3人一組で行い、結果と考察をレポートとして提出する。筆者は12のテーマのうち1つを担当した。

また、同じ物理科学科の教員との共同研究において、大学院生と共に学外の共同利用実験施設における実験を行っている。このような実験では学生に対して、各種手続き、実験作業、実験データ解析の指導を行い、実験データの解釈に関する議論などを行っている。

教育の理念

2.1.	主体的に勉強や研究を行い、意思決定を行うことができる
私は、学生には主体的に勉強や研究を行う姿勢を身に付けて欲しいと考えている。その理由は、自身の経験から、人から教わったことよりも、自分自身で能動的に調べたこと、計算したこと、実験したことの方が、より強く自分の中に残っており、普段の研究生活の中で役に立っていると感じているからである。
また、研究は答があらかじめ用意されているのではなく、自分で答を見つけていく作業である。そのためには、自分の知性を信じて研究の方向付けを行うこと、得られたデータを解釈し自分の結論を主張することなど、自分で意思決定を行うことが重要となる。
ここに挙げたような研究に対する姿勢を身に付けることは、学生が卒業後に行う仕事においても役に立つと考えている。

2.2.	問題に対して科学的なアプローチができる
私は、学生には研究活動を通じて、データを取ること、取得したデータは統計的な処理を施すことで有意義な結論を引き出せること、データを比較する場合には条件を一つだけ変えて行った実験データを比較することなど、科学的な方法論を身に付けて欲しいと考えている。このような方法論は物理学に限らず、社会科学を含めた科学一般で用いられている手法であり、企業や官公庁などにおけるデータを扱う活動においても、必ず必要な能力であると考えているためである。私は、私の研究室を卒業した学生が、このような能力を発揮することを職場で求められた場合には、それに応えられるようになってほしいと考えている。さらには、仕事で直面する様々な問題に対して、学生自らが科学的なアプローチが必要であるかを判断し、それを実行できるようになってほしいと考えている。

2.3.	科学リテラシーを身に付けている
学生には研究を通じて、科学的な手続きを踏んで他の科学者に認められるような主張をすることの大変さを味わってほしい。また、教科書を鵜呑みにすることは良くないが、教科書に載るような物理学の法則は、過去の偉人の言葉だから正しいのではなく、その法則が膨大な実験結果と矛盾がないために、世界中の科学者から認められていることを理解してほしい。科学的に怪しい言説を目にした場合、その主張がこれまで読んできた教科書を大幅に変更するようなものかどうか、もしそうであれば、それだけの強い主張を裏付けるような実験的証拠があるかどうかを常に考える人間になってほしいと考えている。

2.4.	現代物理学が獲得した世界観や物質観を身に付けている
科学を用いて解決しなければいけない問題に取り組むには、現代物理学が獲得した世界観や物質観を前提として持っていなければいけない。極端な話かもしれないが、地動説を理解していない人間に宇宙開発をすることはできないであろうし、原子の存在を知らない人間に材料開発はできないであろう。しかし、そのような世界観や物質観は、日常生活の中での体験だけでは到底たどり着けるものではない。人類の歴史は数千年以上あるが、人類が地動説に気づいたのは約500年前、原子の存在に気づいたのは約100年前であり、かなりの時間がかかっている。これは、相当な修練と高度な実験を通してでなければ、そのような世界観や物質観を手に入れることはできないことを意味している。物理科学科で学ぶ学生には、その日常生活の中では決して得られない体験をする機会が設けられているので大いに利用してほしいと考えている。

教育の方法

3.1.	研究スタイル、研究テーマの選定
学生が研究活動を通じて主体的に学ぶ姿勢を身に付けるために、1人の学生が一つの研究テーマを担当し、責任を持って研究するというスタイルを選択した。また、学生が主体性を持って研究に取り組むことを動機付けるには、自分の研究テーマが周囲の注目を集めていると感じられることであると考えた。そのためには、学会でも注目されるような魅力ある研究テーマ、教員が本気で面白がっている研究テーマを学生に提案しなければいけない。そこで、私は、多少4年生には荷が重いと感じられるテーマでも、提案している。

3.2.	1対1での研究相談
科学的な方法論やリテラシーを身に付けるには、実際にその方法論やリテラシーが活用されて、自然界の未知の姿が明らかになる現場(研究)を目の当たりにすることが最もよいと考えている。そのため、私は1対1での研究相談を日常的に行うことを心掛けている。特に研究を開始して間もないころは、指導教員がかなり研究をサポートしなければいけない。その際、次に行うことを学生に指示するだけではなく、学生と共に研究対象となる物質の現在の研究状況を調べ、自分がどのような方法論や考え方に基づいて次の作業を行うのかを、丁寧に説明するよう心掛けている。

3.3.	学生に判断させ、良い判断は褒める
主体的に研究する態度を身に付けてもらうため、ある程度実験の作業に習熟してきた学生には、どのような解析をしなければいけないか、データの解析結果から何が読み取れるかなど、研究上の判断を少しずつ行ってもらうようにしている。これは、自分で意思決定を行うことで、卒業研究が自分の研究であるという意識を持ってもらうためである。その際、その判断の根拠も説明してもらうようにした。これは、学生が科学的方法論を身に付けているかのチェックを行うためである。また、学生が良い判断をした場合には、大いに称賛した。これは、自分も大学院生の頃、研究上の判断を自分で下すことに恐れを感じていたが、自分の判断が正しかったという成功体験を積むことで、少しずつ自信を付けていったという経験があるためである。学生にもそのような成功体験を積むことで、自信を持ってほしいと考えている。

3.4.	自分が研究を楽しんでいる姿を見せる
主体的に研究を行う態度を身に付けてもらうためには、主体的に研究を行っている人物を日常的に見て刺激を受けることが効果的であると考えている。そのために、私が研究指導において最も心掛けていることは、指導教員自身が学生との研究に本気で取り組み、研究を楽しんでいる姿を見せることである。私は、主体的に学ぶことによって、何かを計算できるようになる、これまでできなかった実験ができるようになる、これまで理解できなかったものが理解できるようになるということは、大変楽しいということを学生に理解してほしいと考えている。それを伝えるには、研究を通して計算や実験ができるようになったはずの人間である私が、目の前の研究を楽しんでいなければいけないと考えている。

3.5.	学外の共同利用実験施設における実験
学外の共同利用実験施設では、一つの大学では維持・管理することができないような、高価で大型の実験装置を用いて実験を行うことになる。このような装置を用いて得られる高精度な実験データに触れて物理学を学ぶことは、日常生活では決して体験することができないものである。また、このような実験装置を維持管理するスタッフは、その実験手法のスペシャリストである。大学院生は自分の研究を進めるために、そのスペシャリストと研究者として向き合い共同研究を行わなければいけない。これは、大学院生が研究者としての自覚を持ち、主体性を持って研究する態度を身に付ける良い機会であると考えている。

今後の目標

5.1.	短期目標
今後は、研究の新奇性としては十分ではなくても、高い教育的効果が望めるテーマも考え、卒研生の適正を見極めた上で提案することも検討したい。具体的には、実験装置の開発を考えている。実験装置の開発は、新奇な物質の性質を明らかにする研究テーマではないが、実験装置自体が物理学で明らかにされた法則を用いて作られているため、体験を通じて現代物理学を学ぶ良い機会になると考えられる。

今後は、学生がそのような力を身に付けられるように、また、その効果がどれくらい現れているかをチェックするように心がけた指導を行いたいと考えている。

学外実験施設での実験では、学生が初めて触れる実験装置が多いこと、装置の利用時間が限られていることから、学生の自主性に任せる場面を十分に作ることができないこともあった。今後は、実験の効率と教育のバランスを取ることが課題であると考えている。

今後は、大学院生の指導を行い、指導した大学院生が学位を取得することを目標としたい。特に、自分の研究を第三者に伝える力を身に付けてもらうことにも力を入れた指導を行っていきたいと考えている。そのため、国内外での学会における発表や論文の執筆を重視する。

研究に必要な基礎学力を十分に付けるための講義形式の授業にも取り組みたいと考えている。物理学が自然現象を説明できる学問であることを伝えることができる印象的なデモンストレーションを開発し、授業で行いたいと考えている。

5.2.	長期目標
現時点では十分な指導は行えていないが、私の専門とは全く異なる分野で、研究を通じて身に付けた科学的な方法論を十分に発揮して、人類が抱える問題の解決に活躍する人物が出てくることが目標である。

エビデンス


参考資料

参考URL

標準版TP

シラバス

2024年度
2023年度
2022年度
2021年度
2020年度
2019年度